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第2回かつしか文学賞 受賞作決定!

舞台は葛飾。心に響く小説(はなし)が寄せられました。

下町情緒あふれる、人情豊かなまち葛飾の魅力をより多くの皆さまに知っていただくとともに、新たな文化を葛飾から発信するため、葛飾を舞台に心のふれあいを題材とした小説(はなし)を募集いたしました。
そして、このたび応募総数163作品の中から、大賞1作品、優秀賞3作品が選ばれました。
“かつしか発”感動の受賞作品です。

■作品集の詳細はこちらをクリック!

『天晴(あっぱ)れ オコちゃん』
三宅 直子(みやけ なおこ)さん(1937年生)
シナリオライター
東京都調布市在住

『心地よい居場所』
栄えある大賞を賜りまして悦びにひたっております。
この作品を書くきっかけは、九十六歳まで元気一杯に生き抜いた母を見送ったことでした。年寄りのパワーによって、周りの人達がそれぞれの居場所を得て元気になっていく話にしたいと思いました。
取材で何度か訪れた葛飾が、登場人物達と共に私にも新たな心地よい『居場所』になっています。テレビアニメ『キャプテン翼』の脚本を書いていた縁も二重の悦びとなりました。ありがとうございました。


『たそがれの青砥橋』
小林 ヘ猛(こばやし たかお)さん(1958年生)
青砥やくじん延命寺住職
東京都葛飾区在住
人生捨てたもんじゃないよね
あっと驚く奇跡が起きる
優秀賞受賞の連絡をいただいた時にAKB48の歌が浮かびました。さまざまな文学賞に応募しては落選を繰り返してきました。かつしか文学賞の第1回目は落選。今回は気張らず楽しく書けたのがよかったのかもしれません。選んでいただいた審査員の皆様、それからこれまで出会えたすべての人たちに心から感謝申しあげます。まだまだ人生半ば、この先にもあっと驚く奇跡が起きることを信じて。


『ドアの向こう』
洲之内(すのうち) タカさん(1957年生)
独立行政法人職員
神奈川県平塚市在住
ハンカチで汗を拭きながら、ふと見上げた電車の中刷り広告。それがきっかけでした。受賞できてとても幸せです。
取材で出逢った葛飾の人々は、心地よい和音のように穏やかで、今も僕の心に。
史跡の立石、熊野神社には取材とは別に願掛けに足を運んだこともありました。
選考委員の先生方、関係者の皆様、僕を支えてくれた大事な友に感謝します。
今は亡き恩師の大畑弥七教授や父母も天国で喜んでくれているに違いない。


『葛飾ラプソディ』
樽井 弘志(たるい ひろし)さん(1963年生)
無職
東京都足立区在住
「今度は直木賞!」大いなる野望を抱きました。
締切当日23時55分、荒れる台風の中、郵便局にぎりぎりセーフ!あきらめないで本当によかったです。
この作品は、シンフォニーヒルズのあたたかい雰囲気から生まれました。
この機会をくださった「かつしか文学賞」関係者の皆様に厚くお礼を申し上げます。
一読「バカだねぇ」と笑ってくださったら最高の喜びです。
末筆ながら皆様のますますのご健康をお祈りします。

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【選考委員選評 〜最終選考を終えて〜】

加古 陽治 選考委員長(東京新聞編集局文化部長)
1962年生まれ。愛知県東海市出身。
東京外国語大学スペイン語学科卒。1986年中日新聞社入社。社会部の司法担当、教育担当、ニュースデスク、原発取材班総括デスクなどを経て2012年7月から現職。原発取材班は同年、菊池寛賞を受賞。「加古陽」名で短歌を詠んでおり、2008年度角川短歌賞次席。共著に『レベル7』『原発報道』『テロと家族』など。

読む悦び、選ぶ悩み

さすが、予備選考を通過した作品だけある。手元に届けられた十二作品は、それぞれに読み応えがあり、楽しく読めた。問題は、そこからどう選ぶかである。いざ選考する目で読むと、欠点も見えてくる。面白い作品だがアラが目立ったり、どこかで読んだ人情話のように感じられたり。楽しく読んだ後に訪れたのは、選ぶ悩みである。
いずれ劣らぬ力作の中で、選考委員が一致して一位か二位に推したのが、「天晴れ オコちゃん」だった。孫娘に引き取られて葛飾・水元にやってきたおばあちゃん。その存在が周囲の空気を和ませ、人々を優しく前向きにさせる。福島から自主避難してきた家族を登場させるところなど、時事的な要素も上手に取り込んでいる。短い文を連ねた文章はリズミカルで、読後感がすがすがしい。ややこぢんまりした作品だったこともあり、私自身は二位グループの一作として推したが、大賞に選ぶことにまったく異存はなかった。
私のイチオシは優秀作の「葛飾ラプソディ」。パワフルでスピード感のあるB級コメディーで、クスクス笑い通し。関東で生まれ育った人にはなじみが薄いかもしれないが、この味わいはまさに「吉本新喜劇」である。分かる人には分かるように、「寅さん」の味付けをしているのもいい(たとえば、「多湖社長」は「タコ社長」のようだし、タクシー運転手「田所」は「寅さん」を演じる渥美清の本名である)。半面、傷が多いことも確かだ。来日した外国人の夫妻が、いきなり日本語で会話するのはないだろう。
優秀作の「たそがれの青砥橋」と「ドアの向こう」はそれぞれ物語の完成度が高く、選考委員会の評価が高かった。だが、前者は「常套句を叩きつけた」といった不用意なフレーズ、後者は同棲している恋人の親に別れて欲しいと言われ、女性が黙って姿を消すという設定がリアルでないところが気に掛かり、推すのに二の足を踏んだ。
最優秀作、優秀作に選ばれなかった中にも魅力的な作品はあり、そのうち二、三の作品は最後まで優秀作の候補に挙がっていた。今回、惜しくも選に漏れた方には、ぜひ再チャレンジしてほしい。欲張りな読者の立場から言えば、多くの作品にみられた「かつしか=人情もの」ではない、斬新で意欲的な作品を読んでみたいと思う。


小池 昌代 選考委員(作家)
1959年生まれ。東京都出身。
津田塾大学国際関係学科卒業。詩と散文を書き続けている。主な詩集に『永遠に来ないバス』(現代詩花椿賞)、『もっとも官能的な部屋』(高見順賞)、『ババ、バサラ、サラバ』(小野十三郎賞)、『コルカタ』(萩原朔太郎賞)等。短篇集には『感光生活』『タタド』(表題作で川端康成文学賞)など。長編には『弦と響』『厩橋』などがある他、詩のアンソロジー『通勤電車でよむ詩集』『おめでとう』などを編纂。最新刊はエッセイ集『産屋』。

描かれた人間像を通して、未来への希望が見えてくる

人間は、生きる「場所」というものと、常に強く結ばれています。三年前の大震災と原発事故以後、そのことの意味は、いよいよ重く、切実になりました。今回で、二回目を迎えた「かつしか文学賞」。今年は応募作品に広がりがあり、描かれた人間像を通して、未来への希望が見えてきたような気がしました。
本賞には、その後、作品が上演されるという、他に類を見ない展開が待っています。それ自体は大変楽しみなことですが、ときにそのことにひきずられ、作品が、展開の素早い、会話主体の、わかりやすい人情ものといったパターンに陥る危険もあるような気がします。言葉の力だけで、どれほど自立した豊かな作品を作り上げられるか。この賞に関わる書き手には、その課題が突きつけられていると感じます。
大賞作品「天晴れ オコちゃん」は、なんといっても、九十歳になるという富久(ふく)さん、通称オコちゃんが魅力的でした。この作品にも、オコちゃんの周りに、多くの人が登場するのですが、不思議なことに騒がしさがありません。すべてを語り尽くさず、思いを凝縮して生きる、オコちゃんの人物造形に力があるからだと思います。彼女が歌う子守唄や、水元に伝わるという民話「しばられ地蔵」のエピソードも心惹かれるもので、こういう部分を、もっと膨らませてほしいと思ったくらいです。人間が右往左往する、水平の広がりだけでなく、歴史に接続することで垂直の広がりが生まれ、作品が読み応えのあるものになっていました。
選考会がスタートした時点では、それぞれの選考委員が押す作品にばらつきがあり、どれも、欠点が魅力に、魅力が欠点にもなるという具合でしたが、大賞については、水が流れるように自然な成り行きで決定しました。
他に、音楽を通じ高齢者たちが繋がりあう風景をユーモラスに描いた作品、あるいはまた、経験者だからこそ書けたのではないかと思われる学校を舞台にした作品など、注目した作品がいくつかあったことを付記します。


松久 選考委員(作家)
1968年生まれ。東京都葛飾区金町出身。
おもな著書に、映画化もされた『天国の本屋』シリーズ、『ラブコメ』シリーズなど。2014年の近刊に『中級作家入門』と『かみつき』がある。

多彩な作品と贅沢な選考

大賞「天晴れ オコちゃん」はとてもあたたかい人情喜劇。とにかく「オコちゃん」が魅力的です。こういう話の老婆にありがちなステレオタイプではないところがいい。行動的ではあるけどやりすぎず、物わかりがよすぎることもなく、そういう普通っぽさがチャーミング。
ラストのほうで、次男の光太の「しばられ地蔵」に、親友の信ちゃんが福島に帰りたくないと縄を巻くシーン、引きこもりの長男友幸が、酔客にバケツの水をかけるシーン、素直にほろっとしました。文章に粗はありますが、それを補って余りある読後感です。
個人的には「ドアの向こう」を推しました。本来、こういった賞に選ぶタイプの作品でないかもしれません。小品だし、モラトリアムからの卒業、父を乗り越える物語と、話はいたってありがちです。
それでも、「完成度」はいちばんでした。文章に無駄がなく、この手の物語にありがちな「酔う」こともなく、目線がぶれずにしっかりしている。主人公だけでなく恋人、父、教え子からコンビニ店長に至るまで短い描写で人物が浮かび上がりました。(タイトルは再考していただきたいですが……)
実は私が3番目に推した作品は、残念ながら選から漏れてしまいました。上記2作に負けないくらいに好きだったのですが、そんな作品ですら……というひじょうにぎりぎりの選考でした。かように、今回も様々なタイプの作品が集まり、選考委員がそれぞれ好きな作品が違うという、ある意味で贅沢な選考会となりました。
素敵な作品をお書きいただいたすべての応募者の皆さんに、感謝いたします。

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