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第3回かつしか文学賞 受賞作決定!

舞台は葛飾。心に響く小説(はなし)が寄せられました。

下町情緒あふれる、人情豊かなまち葛飾の魅力をより多くの皆さまに知っていただくとともに、新たな文化を葛飾から発信するため、葛飾を舞台に心のふれあいを題材とした小説(はなし)を募集いたしました。
そして、このたび応募総数124作品の中から、大賞1作品、優秀賞3作品が選ばれました。
“かつしか発”感動の受賞作品です。

■作品集の詳細はこちらをクリック!

『天のこと』
広都 悠里(ひろと ゆうり)さん(1965年生)
パート従業員
大阪府大阪市在住

ずっとお話を書いてきました。どこにも届かない手紙をひたすら書き続けるような毎日に思い悩んだこともありました。今回、届ける機会を与えられたことに心から感謝いたします。
なつかしさが残る下町の建物の間から見えるスカイツリーの風景が目の前に浮かんだ時、物語は始まりました。葛飾区という場所がなければ産まれなかった物語です。ひとりでも多くの人に届けられたら、こんなにうれしいことはありません。


『葛飾弁当店の奮闘』
酒本 歩(さかもと あゆむ)さん(1961年生)
コンサルタント(中小企業診断士)
東京都葛飾区在住

葛飾に住んで30年近く。今回の話の舞台には葛飾の人と景色と空気がふさわしいと思いながら書きました。いつの間にか登場人物が気ままに行動を始めて、思いも寄らぬエピソードが増えてしまいました。そのせいかどのキャラクターにも愛着があります。いつか続きを書いてみたいと思っています。
これまでは読むばかりでしたが、小説を書くことの楽しさを知りました。この賞への応募を勧めてくれた妻に感謝したいと思います。


『風に守られ』
橘 葉子(たちばな ようこ)さん(1969年生)
弁理士
東京都葛飾区在住
この度は、第3回かつしか文学賞優秀賞をいただき大変ありがとうございました。
葛飾区へは一昨年出産子育てのために引っ越して参りました。それからというもの、地域の方々の妊婦や子ども連れに対する親切や優しい言葉に接し、子育てを歓迎する温かい土地柄を実感する毎日です。 作品は、そのような、葛飾区で出会ったたくさんの親切な方々への感謝の気持ちを表したく執筆致しました。読んで楽しんでいただければ幸いです。


『続・葛飾区のあゆみの調査報告』
そらら さん(1973年生)
大手金融機関勤務
東京都中野区在住
かつしか文学賞の応募を見つけた瞬間、稲妻が私の体を駆け抜けるが如く、本作品のイメージが一気に舞い降りた。内容は、私が小学校時代、実際に宿題で書いた「葛飾区のあゆみの調査報告」を元に、葛飾区の現状を織り交ぜて小説へと進化させたもの。
光栄なことに今回優秀賞を頂き、当時宿題を出してくれた担任の物江先生、私の家族はもちろん、過去へタイムスリップし、この作品のヒントをくれた昔の自分に心からお礼を言いたい。

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【選考委員選評 〜最終選考を終えて〜】

加古 陽治 選考委員長(東京新聞編集局文化部長)
1962年愛知県生まれ。
東京外国語大スペイン語科卒業後、中日新聞社(東京新聞)に入社。社会部で司法、教育などを取材。ニュースデスク、原発取材班総括デスクを経て現職。原発取材班は2012年、菊池寛賞。「加古陽」名で短歌を詠んでおり、2008年角川短歌賞次席。著書に『一首のものがたり 短歌(うた)が生まれるとき』(東京新聞)、編著に『真実の「わだつみ」 学徒兵木村久夫の二通の遺書』(同)、共著に『レベル7 福島原発事故、隠された真実』(幻冬舎)、『原発報道 東京新聞はこう伝えた』(東京新聞)など。

レベル上がったなあ

「レベルが上がったなあ」。葛飾文学賞の選考は二回目ですが、最終候補作十三編を読んで、まず思ったのはそのことです。小池昌代さんと松久淳さんも同意見でした。ただし、それぞれが受賞作にと思い描いた作品は、見事に三つに分かれたのですが。
大賞受賞作の「天のこと」は、松久淳さんイチオシの作品。失意の中で葛飾に引っ越してきた若い女性のもとに「天」という変な名前の男が姿を現し、守護霊となって彼女を護るという物語です。読み進むうちに心がほっこりと温まり、邪気が襲いかかる描写にゾクッとさせられ、天が消えてしまう場面ではホロリとさせられます。登場人物が少なく舞台化に難儀しそうなことなどから、私は三番手に推しましたが、もちろん授賞には異存ありません。
私が一位に推したのは「葛飾弁当店の奮闘」でした。舞台は、施設出身の若者たちが働く地場の弁当店。手作りの味のおいしさには定評がありますが、商売は自転車操業です。そこに大手外食チェーンが乗り込み、悪どい手で顧客を根こそぎ奪いにかかります。若者たちは懸命に知恵を絞り、起死回生の打開策を打ち出しますが、それもまた妨害されて…。この作品、とにかく早く次の展開を読みたいと思わせる推進力が強くて、十三編の中では群を抜くページ・ターナー≠ナす。構成もよく練られ、打開策のビジネスプランには確かに「これなら」と思わせる説得力があります。松久さんも三位に推していましたが、あと一歩のところで大賞には届きませんでした。
このほか「北野文庫」「帝釈天ダークナイト」も印象に残りました。前者は、中学生の男の子が祖母からもらった「北野文庫」という奇妙な本を読み解いていく話で、各章の冒頭に本の文章を配した構成が効いています。後者は、登場人物の台詞が活き活きとしているのがいい。「天のこと」と雰囲気が似ていて、両者の比較で選外となってしまいましたが、優秀賞でも不思議のない作品でした。


小池 昌代 選考委員(作家)
1959年東京生まれ。津田塾大学卒業。
主な詩集に『もっとも官能的な部屋』(高見順賞)、『ババ、バサラ、サラバ』(小野十三郎賞)、『コルカタ』(萩原朔太郎賞)。主な短篇集に『感光生活』『タタド』(表題作で川端康成文学賞)、長編には『弦と響』『厩橋』『たまもの』(泉鏡花文学賞)などがある。他にエッセイ集『産屋』、詩のアンソロジー『通勤電車でよむ詩集』『恋愛詩集』など。近年は「百人一首」の現代詩訳にも取り組み、新刊に『ときめき百人一首』。

あくまで「小説」を

大賞に決まった「天のこと」は、恋を失った明瑠に降臨した、ユーモラスな「天」とのやりとりを綴ったものです。なによりも、グルメな用心棒「天」を創り上げた手腕に拍手を贈りたいと思います。完成度が高く、会話のやりとりにはボケとツッコミがあって、物語がテンポよく展開します。「天」は勧善懲悪の完全な神様でもなく、人間臭くて、明瑠に気づきをもたらし、彼女を成長させる導き手という一面も持っています。「すっかり葛飾区が嫌いになった」という明瑠が段々と変化していくところも、この文学賞の狙いにぴたりとはまった秀作だと思いました。登場人物の輪郭にめりはりがつきすぎていて、曖昧なところがなさすぎる点、また、やや常套的な展開が少し気になりました。お芝居の「原作」でなく、あくまで「小説」を読みたい私などは、人間のダークサイド、邪気や鬼をもう少し読みたかったという思いもあります。
優秀賞のうち、「続・葛飾区のあゆみの調査報告」は、いい意味でも悪い意味でも破れた作品です。題名にある葛飾区のあゆみは面白い構造を生み出す格好の素材だったはずですが、結果としてあまり生かされずに残念でした。展開にも無理がありますし(特に結末)、単純なミスもあった。しかし、しかし、小説でしかできないことをやろうとしている意欲が伝わってきて、思わず応援の声を上げた次第です。小説は書き直すことで、がらがらと生まれ変わることがあります。小さくまとめるよりも、大きく失敗してください。そしてまたゼロから小説を書いてください。
「風に守られ」を、最初、私は第一に推しました。冷静な筆致で派手なところはありません。「大賞」にふさわしい大きさもありません。しかしシングルマザーがこの葛飾区で子どもを産み育てていくことの希望が過剰な思い入れを排して素直に表現されていました。あとはもう、「破綻を恐れず」どころか、破綻を呼び込む気持ちで書いていただきたいと願っています。


松久 選考委員(作家)
1968年、葛飾区金町出身。
おもな著書に、映画化もされた『天国の本屋』シリーズ、『ラブコメ』シリーズなど。近刊に『もういっかい彼女』と『麻布ハレー』がある。

作者はプロ?

大賞の「天のこと」は、ちょっとした言葉が人の感情を動かし、ときに邪気を生む(その逆もある)というシリアスなテーマを、具体的なシーンで表現しているのが見事。荒唐無稽な設定と、終始肩の力が抜けた文章にも関わらず、最後まで気持ちよく、かつ説得力を持って読ませてくれました。イチオシ、でした。
「続・葛飾区のあゆみの調査報告」は、賛否あるのは承知していますが、個人的に強く推しました。「文体の完成度」が(過去2回も含め)圧倒的に、抜群に、高かったと思います。気持ちのいいリズム、巧みな言葉選び、下品さと寒々しさのぎりぎり手前で着地させる手際。作者はプロではないか?と思うくらいでした。
「葛飾弁当店の奮闘」は安心して読める、いわゆる「かつしか文学賞」に相応しい、あたたかいエンターテインメント。素直に登場人物を応援したくなる、良質なドラマを見ているようでした。
「風に守られ」は、いちばん評価に悩む作品でした。高齢のシングルマザーの妊娠と出産。淡々と、大きなドラマも起きない、ただそれだけの話。なのに、ぐいぐいと引き込まれ、いつのまにか温かい気持ちになっている。読後にいちばん思い出す作品でした。
第三回目にして、候補作のレベルが格段に上がった気がします。そして「下町」+「人情」=「成長」という、ありがちなフォーマットに捉われず、内容のバリエーションも増えてきました。第四回がますます楽しみです。
(あえて唯一の苦言を呈すると、候補作含めほぼ全作、タイトルがいまひとつでした……)


最終選考作品(13編)は以下のとおり
・赤いランドセル
・石しるべ
・お花茶屋の看板娘
☆風に守られ
☆葛飾弁当店の奮闘
・北野文庫
☆続・葛飾区のあゆみの調査報告
・帝釈天ダークナイト
・タヌキと町工場
★天のこと
・豚の鼻先
・まっしろな一日
・ムーン・リヴァー

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