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「第4回かつしか文学賞」受賞作品決定!

―舞台は葛飾。心に響く作品(はなし)が寄せられました―


『立石ロッキー』
牧野 恒紀さん(まきの こうき)さん
1970年生まれ
学習塾運営
東京都杉並区在住

【受賞の言葉】

「ボクシングにラッキーパンチなどない」。

元王者の言葉です。僥倖だったとしても、その一撃のために鍛錬を重ねてきたのだと。

初めて小説らしきものを書いてから現在まで、何かを重ねてきたのかと問われれば、心許ないものがあります。
それでもつたない作品を拾い上げてくださった選考委員の先生、関係者の方々にお礼を申し上げます。

立石の再開発、上手くいくといいですね。また訪れるのが楽しみです。


【あらすじ】
宇崎凛太郎は立石育ちのプロボクサーで、豆腐屋の主でもある三十六歳。駅前の再開発による立ち退き話もあり、人生の岐路に立たされていた。
再起を図る彼に日本王座挑戦のチャンスが舞い込む。お節介だけど、温かい商店街の人々へベルトを捧げたい。
凛太郎は立石のロッキーになるべく、若きエリートに挑むのだった。


『夢を継ぐ者』

宮本 ばれい(みやもと ばれい)さん
1953年生まれ
会社員
東京都練馬区在住

【受賞の言葉】

初めて賞を戴きました。嬉しくて堪りません。
ストリップ劇団の再生という話なので、少し心配しておりました。でも、杞憂でした。  

下読みの方々、審査員の先生、区長、全ての方々に心から感謝申し上げます。この作品には、昭和へのオマージュを詰め込みました。気付いて戴ければ幸いです。
……語りつくせぬ喜びですが、今はただ感謝です。ありがとうございました。


【あらすじ】

 就職試験にことごとく落ち、将来に不安を持っていた大学生。
母に言われ作家である伯父を訪ねると、かつて出版界から追放され絶望の淵に立たされた際に、低迷する青戸のストリップ劇団の再生に携わった起死回生劇の話を聞く。



『あんこと石のや』

佐野 香織(さの かおり)さん
1980年生まれ
社会保険労務士事務所勤務
東京都葛飾区在住

【受賞の言葉】

この度は、優秀賞を頂きありがとうございます。
物語の題材にしました「立石様」は、立石の地名の由来ともなった奇石であり、祀られている児童遊園は、私が子どもとよく遊びに行く公園でもあります。
身近な石神様に与えられたインスピレーションを大切に、仕事や家事育児の合間を縫って少しずつ描いていきました。
物語を通じて、地域や身近な人、そして家族を愛する心を感じ取って頂けましたら幸いです。


【あらすじ】

立石の老舗和菓子屋の一人娘は、祖父を亡くしたショックから立ち直れずにいる。
そこへ16年前に突如家を出た叔父が帰ってくる。
そりの合わない叔父と過ごす中で、叔父が家に帰ってきた本当の理由を知る。



『奥戸橋』

野田 昌彦(のだ まさひこ)さん
1957年生まれ
教員
東京都葛飾区在住

【受賞の言葉】
私は葛飾で生まれ育ち、葛飾が変わっていくさまを見てきました。
このたびの作品は、顧問をしていた高校演劇部のために書いた脚本を小説化したもので、1970年代が舞台です。
当時の風景を思い出して書きました。葛飾は中小企業の町です。
夢や希望を抱いて地方からやって来た若者が、この町の工場や商店で働き、この町で生活してきました。
派遣という働き方がなかった時代、働きながら定時制で学ぶ高校生の姿をえがきたいと思い執筆しました。


【あらすじ】

全日制と定時制で同じ高校に通う男女の生徒。二人は同じ座席を使っており、ラジオを置き忘れたことがきっかけで文通を始める。
卒業が近づき、奥戸橋で会う約束をするが・・・。


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【選考委員選評】

増田 恵美子(ますだ えみこ) 東京新聞文化部長

映画、漫画、そして言葉を 大切にする街・葛飾区に期待

今回初めて、かつしか文学賞の選考という栄に浴しました。個人的にも数年前から葛飾区在住、それ以前にも区内を取材していたこともあり、最終候補作十作品それぞれ、「あの町の話だ」「今度行ってみよう」などと、楽しく読ませていただきました。 

その中で、小説としての完成度という観点からは、「立石ロッキー」が頭一つ抜けていると判断しました。選考会では松久淳さんと私が同意見、山口恵以子さんは「夢を継ぐ者」の方を好きだと推されましたが、作者の技量としては「立石ロッキー」への評価も高く、異存はないということでしたので、最終的には短時間で、大賞が決定しました。

「立石ロッキー」は、今まさに、大型再開発の最中で区内外から注目される「立石」という街の優れた物語性を、ちゃんと活かした筆力が見事でした。具体的には、全体的な構成はもちろん、街や人の描写、それらに色を付ける洒落た会話…つまり大枠から細部まで、神経が行き届いていました。好みは分かれるかもしれませんが、恋愛物で終わらなかったことも、効果的だったように思います。

今回の最終候補作で印象的だったのが、このように、立石を舞台にした作品の多さでした。それはそのまま、葛飾区の今、の反映でしょう。それがわかることにも、この文学賞の面白さ、意義があるのだと気付かされました。

「あんこと石のや」も、優しい雰囲気で高評価でした。「奥戸橋」は街と人々の描写が巧みで、心地よく読めました。

他の作品では、発想や部分的な描写は魅力的なのに、正直読み疲れしてしまうものも。作者が一歩引いて多少整理すれば、格段に良くなりそうなのに、もったいないと思う作品もありました。ただ、それはすなわち、次作に期待できるということ。映画、漫画で広く親しまれている葛飾区ですが、さらに言葉を大切にしようという姿勢は尊いです。さらなる小説の誕生も楽しみです。



松久 淳(まつひさ あつし) 作家

全4回の中でも、トップクラスの作品

大賞の「立石ロッキー」は今回だけでなく、かつしか文学賞全4回の中でも、トップクラスの出来でした。

多くの登場人物それぞれに見せ場を用意する巧さ、その関係性・絡みが回収されていく見事さ、結末の試合までへの流れからの、ボクシングの試合をいくつかの目線で切り替えながら進ませてのカタルシス。文句なしです。さらに台詞やちょっとした地の文のセンスは、実に私好みでした。

やや「下町人情もの」のバランスがトゥーマッチかなと思うところがあっても、読ませる力がすごいので先に進んでしまう。細かいことを言うのも野暮だなと思わされます。安易な恋愛ものに落とし込まなかったのもよかった。

推測ですが、「自分が好きな話を書く」ということに徹して書かれたと思います。それが「読者を楽しませる」に直結している。ちょっと嫉妬したくらいでした。

大賞との差は大きいですが、「あんこと石のや」が私の2位でした(しかし同時に、3位以下との差も大きいです)。いい意味で「かつしか文学賞」っぽい作品。ヒロインと叔父それぞれの成長物語としてバランスもよく、きれいにまとまっていると思います。

この2作をはじめ、今回もいいお話をたくさん読ませていただきました。ですが前回とまったく同じ残念なことがひとつ。大賞含めどの候補作も、タイトルがまったく「そそられない」です。いい作品なのにもったいない。

そして余談をひとつ。候補作全体の印象ですが、これまでに比べ立石が舞台の作品が多くなっていたのが印象的でした。そのときどきで、葛飾区のどの街がいま注目されているのかがわかるようで興味深かったです。


山口 恵以子(やまぐち えいこ) 作家

この賞は始まりに過ぎない

読み始めるやいなや、「夢を継ぐ者」にすっかり魅了されてしまった。軽快な文章、ぶっ飛んだストーリー展開、ひねったユーモア感覚、細部のリアリティもしっかりしていて、楽しみながら、あっという間に読了した。私は通常、小説やテレビ番組を見ても笑うことがほとんどないくらい、気難しくて偏屈な人間である。それが何度も「プッ!」あるいは「クスッ」と笑いを誘われたのだから、大感激だ。気に入らないのはタイトルだけ。内容に相応しい、ぶっ飛んだタイトルを!

「立石ロッキー」は「ロッキー+下町人情物語」というフォーマットに寸分違わずピタリとはめ込んだ作品で、作者の技量はお見事。町をただの背景や小道具にせず、ストーリーとしっかり組み合わせているのはこの作品だけ。大賞は当然だと思う。私が「夢を継ぐ者」の方を好きなのは、天丼が好きかカツ丼が好きか、という類いの違いでしかない。

「奥戸橋」は、一九七〇年代の葛飾に確かにあったであろう風景と青春の形を、丁寧に、情感豊かに描いていて好感を持った。月並みなハッピーエンドではなく、むしろ時代の理不尽さを感じさせる結末だが、それさえも跳ね返す若さに希望を、いや、むしろ羨望を覚えた。実は私も高校時代、同じ机を使っていた定時制の男子と半月だけ文通した経験があるので、物語がより一層身につまされた。

もったいないと思ったのは「御手洗判子店」。この枚数で連作短編形式は無理がある。戦地から亡夫が送ってくれた判子の文字が腐食して解読出来ず、推理するうちに実は字でなくて絵だったと分る……というアイデアは非常に素晴しい。このアイデアを活かして、心温まる短編小説に仕上げてくれたら、絶対に優秀賞間違いなしだったのにと、残念でならない。



【優秀賞ノミネート作品】※あいうえお順

「かつしかオールド・ベイビーズ・ウイズ・ユー」 百川 景(ももかわ けい)作

「サムズアップをもう一度」           石渡 稔(いしわた みのる)作

「散歩道」                   大澤 浩一(おおさわ こういち)作

「ペガサス座の恋」               高坂(こうさか)トウ 作

「僕たちの夏」                 長谷 久枝(ながたに ひさえ)作

「御手洗判子店」                高野 麻未(たかの まみ)作


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