大賞の「立石ロッキー」は今回だけでなく、かつしか文学賞全4回の中でも、トップクラスの出来でした。
多くの登場人物それぞれに見せ場を用意する巧さ、その関係性・絡みが回収されていく見事さ、結末の試合までへの流れからの、ボクシングの試合をいくつかの目線で切り替えながら進ませてのカタルシス。文句なしです。さらに台詞やちょっとした地の文のセンスは、実に私好みでした。
やや「下町人情もの」のバランスがトゥーマッチかなと思うところがあっても、読ませる力がすごいので先に進んでしまう。細かいことを言うのも野暮だなと思わされます。安易な恋愛ものに落とし込まなかったのもよかった。
推測ですが、「自分が好きな話を書く」ということに徹して書かれたと思います。それが「読者を楽しませる」に直結している。ちょっと嫉妬したくらいでした。
大賞との差は大きいですが、「あんこと石のや」が私の2位でした(しかし同時に、3位以下との差も大きいです)。いい意味で「かつしか文学賞」っぽい作品。ヒロインと叔父それぞれの成長物語としてバランスもよく、きれいにまとまっていると思います。
この2作をはじめ、今回もいいお話をたくさん読ませていただきました。ですが前回とまったく同じ残念なことがひとつ。大賞含めどの候補作も、タイトルがまったく「そそられない」です。いい作品なのにもったいない。
そして余談をひとつ。候補作全体の印象ですが、これまでに比べ立石が舞台の作品が多くなっていたのが印象的でした。そのときどきで、葛飾区のどの街がいま注目されているのかがわかるようで興味深かったです。
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